設計のお粗末なバイノーラル録音用マイクロホンを改良する方法
- いろいろある「頭」の形
- 製品のデモ・データを録音するためのバイノーラル録音用マイクロホンを製作しているところです. 学術研究をするわけでは無いので単純な三角柱状の頭部モデルを用いているのですが、内蔵マイクアンプの設計・製作等に手間取っています. 完成したら概要をご紹介する予定です.
- 研究では球や球を押し潰したような扁平回転楕円体、モデル化した擬似頭、はたまた自分の頭の型を取って作ったリアル・ダミーヘッドが用いられます.(型取りして作ったダミーヘッドの写真を見ると、デスマスクみたいな感じで少々不気味です...)
- 耳介(みみたぶ)とその音響的効果
- 前方の音さえ収録が出来れば良いので、上下方向や後方の定位を考慮した耳介モデルを取り付ける予定はありません.
実は学生時代の研究室にダミーヘッド録音の研究をしている先生がいて、自分も耳型を取られたことがあります. 耳型はまだ大切に保管されているはずなので、やろうと思えば借りてきて作ったコピーを取り付けることも出来るはずです.(耳型の現物が破棄されていても、スキャンした3Dデータは残っているでしょう)
- バイノーラル録音するのに他人の耳型を使っても意味がありません. 耳の形状・寸法の個人差によって、耳介の窪み部分での高音域の反射・共鳴特性等が異なるからです.(特に上下方向の定位に大きな影響があります) 得体の知れない適当な耳介モデルを使っているバイノーラル録音用マイクロホンでは適当な結果しか得られません.
- 頭の無いバイノーラル録音用マイクロホン
- 使用するマイクロホン・ユニットの資料をwebで集めていて、市販されているバイノーラル録音用マイク(複数)や個人の自作例の多くが頭の無い技術的にあまりにもお粗末なものであることに気がつきました. まったく不要な外耳道をつけたバイノーラル録音マイクがあるのにも驚愕しました.(録音した音を後処理無しにヘッドホン再生する場合、外耳道の特性を近似する必要はありません)
設計のお粗末なバイノーラル録音マイクロホンの例
(設計をしていない)
- 頭の無い耳介モデルだけのマイクではHRTF(Head Related Transfer Function、頭部伝達関数)をまったく再現・近似出来ません. 本格的なダミーヘッド・マイクでは胸からの音の反射も考慮して首・胸部がついているくらいです.(なのでヘッドではなく、トルソとも呼ばれます)
- 自分の耳に装着するイヤホン型のバイノーラル録音マイクでそれなりの効果が得られるのは、収録した音のヘッドホン受聴時に自分の頭のHRTF/音響特性を再現出来るからです.
- バイノーラル録音には長い歴史があります. 最初期のバイノーラル録音の実例としては、まだ真空管アンプが現役だった時代にヘッドホンメーカーのゼンハイザーが製作したデモ・レコードがあったそうです. しかし、お粗末な設計の製品が市場に溢れているということは、バイノーラル録音は一般にはいまだに一時の流行・雰囲気、SNS/YouTubeのネタ程度のものでしかないようです.
- 頭無しのお粗末マイクの改良は簡単
- 前置きはこのくらいにして、市販の設計のお粗末なバイノーラル録音用マイクロホンを簡単に改良する方法を以下にご紹介します.
この種の製品のamazonでのユーザーの性能評価にはかなり厳しいものがあるようですが、改良すれば正面の音のレベルが低い/中抜けする、正面の音が頭外定位しない(前方に定位しない)という致命的欠陥は改善されるはずです.
- 業務用に設計のお粗末なバイノーラル録音用マイクロホンを使用されていて、改良をご希望の方は当社にて対応可能です.(音響的・機械的にしっかりした構造のものに改良できます) 現在製作中のマイク(ダミーヘッド・マイクロホン)と同じ物の販売も可能です.
詳細は電話にてお問い合わせください.
- 改良方法は大変簡単で、これ以上簡略化出来ないほど単純化した頭/顔のモデル(バッフル)を取り付けるだけです. 中央が凸であれば取り付けるバッフルの形状/寸法、素材等は適当でかまいません. 手っ取りばやく試してみてください.(バッフルにはある程度の強度は必要で共振したりしてはいけません)
- 単純なバッフルでも無いよりは はるかにマシなHRTF(Head Related Transfer Function、頭部伝達関数)の近似になります. 頭・顔での音波の回折・反射を適当に近似できればそれで十分です.
- 詳細は下記の図面をご覧ください.(図面を一つにまとめたPDF → binaural_recording_mic_mod.pdf )
設計のお粗末なバイノーラル録音マイクロホンの改良例(正面から見た図)
設計のお粗末なバイノーラル録音マイクロホンの改良例(上から見た図)
手間をかけて工作をする余裕があれば、板状のバッフルの代わりに発泡スチロールやバルサ材を削り出して作った半球状の「顔」(ブロック)を取り付けてみてください.
原理的には上下方向の定位の改善の効果も期待できるはずですが....