指向性スピーカー設計データ
- 実験用に製作した指向性スピーカー(アレイ・スピーカー)の出来がなかなか良かったので、設計データを公開します. 形式はトーンゾイレを横倒しにしたようなライン・アレイです. 縦置きでトーンゾイレとして使用することもできます.
- 市販されているトーンゾイレとの違いは、音質を考量してエンクロージャー容積を多めにとっていることと、非常に小径のスピーカー・ユニット(公称径2.5cm)を使用していることです. そのため、小型ながらもかなり性能の良いスピーカーに仕上がっています. ステレオ再生用にペアで自作するのも良いと思います.
- 横置きでは鋭い水平面の指向特性が得られます. 指向特性の測定はまだおこなっていませんが、残響のある部屋の中で試聴しても指向性の鋭さははっきりわかります.(スピーカーの90°横方向では高域が低下したモコモコした音になります)
- 取り扱い時の保護のために、スピーカー・ユニットの取り付け位置が少し奥まっています.(特性的には不利です) 前面には輸送時の保護用の蓋を嵌め込むことが出来ます.(硬質ウレタンの厚板が凹部にピッタリ嵌ります)
- 持ち運びを考慮して、背面のターミナルは凹部に半分埋め込むような形で取り付けています. 背面を一枚板に変更しても問題はありません.
- 設計データには含まれていませんが、スピーカー・ブラケットへの取付用の鬼目ナットを底面と側面に埋め込んであります.(下記写真で使っているスピーカー・ブラケットはヤマハの BMS-10A です)
指向性スピーカー設計データ array_sp_desing_data.zip (2.8MB)
概要
注意点
- 板材の加工はストーリオに依頼しました. 板材の加工販売をしているオンライン・ショップは多数ありますが、溝加工をしてくれるところは少ないようです.
- フロント・パネル(アクリル板)を板材の溝部分に嵌め込むのには加工が必要です.(アクリル板の厚さと溝の幅がキチキチなので少し削らないとうまく嵌りません)
- アクリル板、板材の加工精度はあまり良くないことを考慮して組立をおこなう必要があります.
- スピーカー・ブラケットへの取付用の鬼目ナット取り付けに必用な部材は別途用意してください.(公開した設計データには含まれていません)
- 溝加工部分が側面に出て穴になってしまうので、接着剤等で埋めてください.
- 使用しているスピーカー・ユニットは公称径2.5cmと小型ながらも、定格連続入力5Wrms、最大ピーク入力20W、最大振幅9mm(peak to
peak)という代物です.(音量を上げると本当にコーンとエッジ部分が前後に振動しているのが目で見て分かります!)
- このユニットは最初から容積不足の機器に組み込んで、無理矢理パワーを入れて鳴らすことを想定して設計されているようです. 残念ながら効率はよくありません.(出力音圧レベル78dB/W@1m)
- 使用するスピーカー・ユニット数を増やせば、もっと低域でも指向特性の鋭いものを作れるはずです.
- 指向特性の実測はまだおこなっていないのですが、残響のある普通の部屋(ダイニング・キッチン)で測定したインパルス・レスポンスから良好な指向性を有していることが確認できました. 測定時のスピーカー/マイク間の距離は約2.5mです. 測定には
TSP (Time Stretched Pulse) と適応フィルタを用いています.
- 比較のために普通の密閉箱のフルレンジ・スピーカーのインパルス・レスポンスも示します.
- それぞれのグラフの縦軸のスケールが異なることに注意してください.
横置き、スピーカー正面
部屋の残響があるために、インパルス・レスポンスは尾を引きます
横置き、スピーカー側面(90°)
直接音のレベルが大幅に低下しています
すなわち水平面の指向特性が鋭いことを示しています
(縦軸のスケールはスピーカー正面のグラフと大きく異なる)
縦置き、スピーカー正面
トーンゾイレと同じ使い方になります
縦置き、スピーカー側面(90°)
トーンゾイレと同じ使い方になります
小径(公称径2.5cm)のスピーカー・ユニットを使用しているため、
水平面の指向特性はブロードです
比較のための普通のスピーカー(密閉箱)の特性
スピーカー正面
比較のための普通のスピーカー(密閉箱)の特性
スピーカー側面(90°)
指向特性は指向性スピーカーの横置きと縦置きの中間程度です
比較のための普通のスピーカー(密閉箱)
スピーカーの口径は12cm
- エンクロージャー無しで6ヶの点音源を42mm間隔で配置した場合の、理論上の指向特性は下図のようになります.(製作した指向性スピーカーのスピーカー間隔は40mm) 周波数
1kHz, 2kHz, 3kHz, 4kHz の指向特性をグラフに示しています.
無限大バッフルを用いた場合は、縦に2つに割った片側の特性になります.
- あくまでも無限遠での指向特性です.
- 4kHzの音波の1/2波長が42mmなので、4kHz以上の周波数では正面方向の指向特性も乱れてきます.
エンクロージャー無しの点音源6素子アレイの指向特性
青:1kHz、ピンク:2kHz、赤:3kHz、緑:4kHz
- 実は原理的にサイドローブの生じない二項アレイ(Binomial Array)の形式で製作したかったのですが、そうすると各素子(スピーカー・ユニット)の利得制御が必要となり専用のパワーアンプの製作が面倒になるために、諦めて単純な同相駆動のラインアレイにしたしだいです.
- アンテナの教科書では、二項アレイは理論上のものであって実用的ではない〜と記述されていることが多いのですが、広帯域の信号を扱う音響系では実用上の大きなメリットがあります. それは空間的なエリアジングが生じない周波数帯域内では、サイドローブが生じないだけでなく周波数特性にもヌル(零点)が生じないことです. ただし、それでも実現可能・実現してメリットのある二項アレイの素子数の上限はたかだか5素子〜6素子程度でしょう.
- 今回用いた小径スピーカー(公称径25mm、フレームサイズ39mm角)を使って本格的に音楽鑑賞用のトーンゾイレ型のスピーカー・システムを製作するとすれば、下図のような構成になります.(あくまでも一つの例です)
- しばしば見かける中途半端な設計では、トーンゾイレの特性を十分に生かすことが出来ません. まともなメーカーのまともな設計の音楽鑑賞用のトーンゾイレも概ね下図と同様の構成になっています.