チルト・イコライザ回路(音質調整用イコライザ回路)
- ヘッドホンアンプなどに組み込んで使うのに最適な、音質調整用チルト・イコライザ回路のSPICEシミュレーション・データです. 以下のシミュレーション例ではLinear Technology社のLTspiceを用いています.
- 単電源なので、このSPICEシミュレーション回路をそのまま組み立てて使用することが出来ます. シミュレーション・ライブラリの都合でOPアンプにはLT1493(LT1492)を用いていますが、実際に回路を製作する際には適切なOPアンプを選んでください. R6/R7はB型10kΩのボリュームになります. 前段の出力インピーダンスが十分小さければ、バッファU2は省略できます.
- インピーダンス低めの回路定数なので、ボリュームまわりの配線の引き回しでトラブルが生じる心配は無いはずです. 歪の点からは、OPアンプの負荷を軽くするために、もう少しインピーダンス高め(抵抗大、容量小)の方が良いかもしれません.
- アナログの音響機器の音質の違いは、実は微妙な周波数特性の違い(周波数特性のうねりの違い)でしかないことが多いのです. 周波数特性が違うのなら、それを補正してやれば音が「良く」なります. しかし、残念なことですが自分で適切な周波数特性の補正が出来る人は多くないでしょう.
- そういう細かい話は抜きにして、大まかな低音/高音のバランスを整えるのに、この回路は便利です. 調整すべきツマミは一つだけ(R6+R7=10kΩボリューム)ですから、誰でも簡単に使えます. レベルの変化量(±5dB)が不足しているように思われるかもしれませんが、特性が変化する帯域幅が広いので、聴感上十分な音質調整効果が得られます. 最初は物足りなく感じても、いろんな曲をじっくり聞き込んでみれば、違いがはっきり分かるはずです.
- このような微妙な音質調整をするためのトーンコントロール回路は、LUX(LUXMAN)や英国QUAD社のアンプに用いられていました. 国は違えども、両社は共通するポリシーを感じられるメーカーであることは興味深いところです. SPICEシミュレーションの回路は簡略化した構成ですが、部品点数を増やしてメーカー製アンプ並みの定規で線を引いたように真っ直ぐなイコライザ・カーブを実現することも可能です.
- 余談ですが、かつてLUX(LUXMAN)はリスニングルームの定在波により生じた低域の周波数特性のピークを補正するための特性可変ノッチフィルタを備えたトーンコントロール・アンプ5F70を販売していました. 設計者はオーディオのことをなかなか良く分かっている人だったようですね. 今はアンプ設計者で室内音響学の基礎知識のある人など皆無でしょう.
- 最近はアマチュア無線家で音質補正に凝っている方がいらっしゃるそうですが、チルト・イコライザは無線機向けの簡易な音質調整回路としても有効です. 古いアナログ式の無線機の低音・高音のバランス(周波数特性の傾き)を補正するのには、グラフィック・イコライザなどよりチルト・イコライザの方が適しています. ただし無線機に使用する場合は、回路定数を変更してレベルの変化量を増やす必要があります.
- アンプ製作の参考になりそうなその他の各種イコライザ回路が、このwebページで紹介されています.
チルト・イコライザ回路(音質調整用イコライザ回路)のSPICEシミュレーション・データ tilt_eq_spice_sim.zip (57KB)
R6/R7は10kΩ(B)ボリューム
前段の出力インピーダンスが十分に低ければバッファU2は省略可能
OPアンプU1, U2は適当なものを選んで使ってください(LMC662, NJM7043, OPA2350 etc)
チルト・イコライザはデジタル処理(デジタルフィルタ)でも実現可能です. 下図は当社で設計したデジタル・チルト・イコライザの特性例です.(サンプリング周波数44.1kHz) 1kHzを中心周波数として低域と高域を独立に制御可能で、アナログの音響機器の周波数特性の微妙なうねりを補正したりするのに適しています. ご要望があれば(?)商品化・外販可能です!?
デジタル・チルト・イコライザの特性例(サンプリング周波数44.1kHz)
次数の高いIIRフィルタになるので、意外と設計に手間がかかります
一般的なトーンコントロール回路とは特性が異なることにご注意ください
Low 3dB up & High 3dB down
Low 2dB up, High 2dB up
Low 5dB up, High 1dB down
Low 6dB up, High 6dB down
Low 2dB down, High 2dB up