ANC(アクティブ消音)の原理
- 逆位相の音を重ね合わせて消音します. 下図では音源1を騒音源とすれば,音源2が打ち消し用の音源となります.
- 騒音源,打ち消し音源がともに点音源である場合はうまく消音出来ません.
- 逆位相で打ち消しになる領域と,逆に同相で騒音レベルが上昇してしまう領域が生じます.
- 2つの逆位相の音源が同じ位置にあるときだけは完全な打ち消しが可能です.
- 平面波同士の場合は2つの音源(面音源)の位相と距離を適切に設定すればきれいに波面の重ね合わせ,すなわち消音が可能です.
- 現実には自由空間中を伝播する音波は完全な平面波にはなりません.
- 平面波の波面の重ね合わせによる消音が可能なのは,一次元の音場となるダクト内に限られます.
- ダクト内を伝播する音波が平面波であるとみなすことが出来るのは,音の波長を
λ,ダクト径を d とした時,d ≪λ/2
の条件が成り立つ場合です. つまり波長に対してダクト径が十分に小さければ,ダクト内は一次元の音場となります.(教科書などにはもっと詳しい理論式が載っていますが,おおまかに
d ≪λ/2 として考えて差し支えありません)
- ダクト以外にうまく消音が可能なのは小さな閉空間(キャビティ)内です.
- これはアクティブ消音ヘッドホンの場合などに相当します. 自動車のキャビン内の消音も同じモデルで考えることが出来ます.
- 下図左はキャビティ内に騒音源がある場合,下図右は外部の騒音がキャビティ内に入ってくる場合です.
- キャビティ内の消音が可能なのは音の波長を λ,キャビティ径を
w とした時,おおむね w ≪λ/2
の条件が成り立つ場合です. つまり波長に対してキャビティが十分小さく,定在波の影響を受けずに内部の音場が一様であるとみなすことが出来れば消音が可能です.
- 下図はアクティブ消音イヤー・マフ(耳覆い)の構成です. アクティブ消音ヘッドホンはヘッドホンに入力されたオーディオ・プレーヤからの信号だけは打ち消されないようにする回路をこの図に付け加えたもので,消音系の基本構成はアクティブ消音イヤー・マフと同じです.
- キャビティ内の音を位相反転してスピーカ(打ち消し音源)から再生しているだけです.
- 図中のEQ(イコライザ)は位相補正回路です. 単純にフィードバックをかけると発振することがあるので,系の特性が発振条件を満たさないように位相補正すると同時にローパス特性を持たせています.
- 数万円もする高価なアクティブ消音ヘッドホンが販売されていますが,それらの消音回路も下図と同じ構成です. 値段が高くても特別に複雑精緻な回路やDSPを使っているわけではありません.
- 産業用の安全具・保護具の販売店や銃砲店などで輸入品の業務用アクティブ消音イヤー・マフを取り扱っているところがあります.
- 下図はDSPを用いないダクト消音システムの構成の一例です.
- イコライザ(EQ)の働きはアクティブ消音イヤー・マフと同じです. 条件によってはイコライザを必用としません. アクティブ消音イヤー・マフと同様アナログ回路で実現出来ます.
- 消音効果が得られる周波数帯域は狭くなりますが,このようにDSPを使わなくてもダクトのアクティブ消音システムを作ることが可能です.
フィードバック方式
フィードフォワード方式
- アナログ回路を用いた構成では広い周波数範囲で良好な消音効果を得るのは困難です.
- DSPを用いてスピーカ/マイクの周波数特性およびマイク〜スピーカ間の音響系の特性を補正してやれば,アナログ方式よりも大きな消音効果を得ることが出来ます. そのために適応フィルタ(図中のADPFIL)を用います.
- ダクト下流側のマイクで検出した打ち消し後の信号のパワーが最小となるように,適応フィルタ(AFPFIL)にフィードバック制御をかけます. フィードバック制御により適応フィルタの振幅特性・位相特性は最適に維持されます.
- 下図はあくまでもDSPを使ったダクト消音の原理を示したもので,実際のシステムの構成はもう少し複雑になります.
- ダクト壁面に取り付けたスピーカは,ダクト内に呼吸する2つの振動板を有する音源があるように働きます.
- スピーカから放射する音の波長がダクト径よりも十分大きければ,ダクト内を伝播する音波は平面波となります.
- 通常,高い周波数領域でも効率よく平面波を放射出来るように,ダクトに対して対称となるように複数のスピーカを取り付けます.
- 実際の消音システムでダクト系が極端に大きくなる場合,途中で径の小さい複数のダクトに分割し,それぞれのサブ・ダクトに取り付けたスピーカでアクティブ消音をおこなうこともあります.