無指向性バウンダリー・スピーカーの製作(塩ビ管スピーカーの製作)
TV用の無指向性スピーカーの作り方はこのページの一番下で紹介しています.(こちらは塩ビ管を使っていません)
夏休みの工作に最適の(?)簡単に作れる小型のデスクトップ・スピーカー・システムです. 塩ビパイプを使ったいわゆる塩ビ管スピーカーの一種ですが、従来のものとは少し違った構成です. 大きさに似合わずなかなか豊かな低音再生が出来ます. 無指向性ですから置き場所をあまり選びません. 机の上に置いて使うパソコン用のモノラル再生スピーカーとして最適です.
机の上に置いたバウンダリー・スピーカー
どこにスピーカーがあるか分かりますか?
ちゃんと音は出ていますよ
当社の音響計測向けの無指向性スピーカー製品 cubeSP に関してはこちらのページをご覧ください.
このページでご紹介しているのは、あくまでもホビー・ユースの無指向性スピーカーの製作例です.
- バウンダリー・スピーカーとは、要はバウンダリー・マイクロホンと同じ原理・構成を用いたスピーカー・システムです. ではバウンダリー・マイクロホンとは何なのだという話になりますが、順を追って説明していきましょう.
- バウンダリー・マイクロホンの構成を下図に示します. 机や天井に穴をあけて取り付ける埋め込み式のマイクロホンが市販されていますが、バウンダリー・マイクロホンを使えば机に穴をあけずに埋め込み式マイクロホンと同等の平坦な周波数特性が得られます.
- 資料によっては下図左をPZM(Pressure Zone Microphone、商品名または商標?)、右の埋め込み式のマイクの方をバウンダリー・マイクロホンと呼んでいるものがあります. 両方まとめてバウンダリー・マイクロホンとして扱うこともあるようです.
- バウンダリー・スピーカーの構成はバウンダリー・マイクロホンと同じです. スピーカーを設置した机がバッフルの働きをするので、バッフル効果による低音域の良好な周波数特性が得られます.(低音の出るスピーカーになる) 原理的には机と同じ大きさの平面バッフルにスピーカー・ユニットを取り付けたのと等価になります. 市販のスピーカー・システム(スーパーウーハー)の中にも同様の構造の床置きのものがあります.
- 製作した無指向性バウンダリー・スピーカーの写真です. 上に文房具などの小物を乗せられるようにしてあります. 設置スペースはわずか100mm x
100mm、高さ160mmです. 上に物入れをつけなければ高さ120mmになります.
- スピーカー・ユニット P800K (Fostex)
- 8cmフルレンジユニット 月刊Stereo誌の付録キットと同じものを完成品として販売しているようです.
- 良く似た型番のP800を扱っている販売店があるようですが、こちらは組立キットですので間違えないでください.(K無しがキット/Kありが完成品)
- 硬質塩化ビニル管VU 呼び径65/外径76mm x 長さ80mm〜100mm程度
- 呼び径と実寸法(直径)が異なるので注意してください
- 音質の観点からは塩ビ管長は長めにして、エンクロージャー容積を稼いだほうが良いでしょう.
- VU65用キャップ(塩化ビニル・キャップ)
- 上を物入れにする場合は2ヶ用意してください(スピーカーとしては1ヶのみでO.K.)
- 硬質塩化ビニル管用接着剤
- ウレタン樹脂系接着剤
- 汎用の接着剤としてコンビニや文房具店でも販売されているものです
- 接続用ミニジャック(またはスピーカー・ターミナル)
- 配線材
- 内部配線の中継用のプリント基板の切れ端
- ゴム足 4ヶ
- 5mmネジで取り付け可能な大型のもの. 製作例ではタカチのB-P4を使っています.
- 5mmビス/ボルト 4ヶ
- 製作例では長さ30mmのものを使っていますが、余裕を見て40mmのものにした方が良いかもしれません
- 5mmネジ、ワッシャ
- 吸音材
- ブチルゴムテープ
- 塩ビ管の内側に貼り付けて制振に使う厚いものです 無くても特に問題はありません
上記の部品以外に工具類も準備して下さい(半田付け用の工具も忘れずに)
- 簡単な構造なので詳しい製作手順の説明は省略して、注意点だけを記します.
- スピーカーP800Kの端子板はフレームから飛び出していて邪魔になる(塩ビ管に入らなくなる)ので、ボイスコイルからの配線を外してから切り取ってしまいます. 代わりにプリント基板の切れ端を加工して配線の中継に使用します. プリント基板の切れ端はスピーカーのフレームに接着します.
- スピーカーと塩ビパイプの接着にはウレタン樹脂系接着剤を使います. 接着強度はあまり高くないので完成後の取り扱いには注意してください.
- ブチルゴムテープは塩ビパイプの内側に貼り付けてください. キャップの内側にも貼り付けます. ブチルゴムテープは無くても特に問題はありません. キャップの切り欠きはミニジャックとの干渉を避けるためのものです.
- 吸音材はたっぷり詰め込んでください.
- 塩ビ管のキャップは空気抜きの小穴を空けてから、塩ビパイプに接着します.(硬質塩化ビニル管用接着剤を使います) 空気抜きの穴はキャップ取り付け後に接着剤や爪楊枝を使ってしっかり塞いでください.
- 下左の写真が完成した無指向性バウンダリー・スピーカーです. その後、物入れとして使うためにもう一つ塩ビ管キャップを上に接着しました.(右の写真) 物入れ用のキャップを取り付けない場合は、コネクタやスピーカー・ターミナルを上に付けても良いでしょう.
- 設置面からスピーカーまでの距離(高さ)で高域の周波数特性が変化します. 製作例では高さ約35mmにしています. ネジの長さと途中に挟むナットの数で高さを調節してください.
- バッフル効果を得るには、スピーカーを置く机に十分な広さが必要です. 周囲に物をいっぱい積んであるとバッフル効果が減ってしまいます.
- スピーカーの置き場所は机の奥の方にして下さい. 手前ではバッフル効果が減ってしまいます. 逆に言えば、置き場所の調整で低域の周波数特性をコントロール出来ます.
- 聴取位置(耳の位置)の上下によっても周波数特性は変わってきます.
- スピーカー(コーン紙)と机表面との間の共鳴が高域の周波数特性に影響します. スピーカーの高さは適切に調整してください.(バウンダリー・マイクロホンでは振動板/振動膜の径が非常に小さいので、この問題は無視できるのですが)
- 共鳴とは言っても、バスレフ・スピーカーのポートなどと比較するとQ(共振の鋭さ)がずっと小さいので、音に極端な色付きはありません.
- 机の上で一回反射して音が出てくるので、超高域の周波数特性は下がり気味になります.
- 聴取位置(机の前に座った時の耳の位置)にマイクを置いて測定した周波数特性を以下に示します. いい加減な方法で測定したもので、部屋の音響特性や机の上に置いた物(LCDモニター等)からの反射音なども含んだ特性ですから、参考程度に考えてください.
- 低音域の測定結果には安物のマザーボードのマイク入力のノイズ、ハム、パソコンのファン・ノイズの影響も含まれています. 200Hz以下もフラットな再生能力があるわけではありません.(測定結果のグラフの200Hz以下はノイズ成分です)
- スピーカー・ユニットP800Kを専用エンクロージャーP800-Eに入れた時の特性と比較すると、大まかな周波数特性の傾向は割と似ていますが、バウンダリー・スピーカーは200Hz〜300Hz付近が持ち上がっているのが特徴です. 低音が出過ぎるように感じられるのであれば、置き場所を机の手前側に移動させてださい.
- 音質に拘るならグラフィック・イコライザで周波数特性を補正すると良いでしょう. 大まかな凸凹をならすだけですから、1オクターブバンドのもので十分です.
- 小型のスピーカーですから、音質はそれなりです. 驚異的高性能が得られるスピーカー・システムではありません.
- 見た目は冴えませんが、というかスピーカーには見えませんが、なかなか実用的な小型スピーカー・システムだと思います. イコライザ/トーンコントロールで軽く周波数特性の補正をかけたぐらいでは対処不可能な致命的なアラは無いと思います.
- 小さい割にはバッフル効果で自然な低音の量感が得られます. 安物の小型スピーカーは、少し音量を上げただけでエンクロージャーの共振等により歪っぽい耳障りな音になることが多いのですが、そのような不自然さが無いのは非常に良いところです.
- 聴感上は、測定結果のグラフを眼で見た印象ほどの周波数特性の暴れを感じません. ゲテものスピーカーらしからぬ(?)意外とまともな音です.
- このwebページの最初の写真にあるように、今は部屋の隅にある机のさらに隅(奥)にスピーカーを置いて使っているので、壁面からの反射による低音増強効果があります. 音楽を聴いている時にはそれほどではないのですが、音声処理の実験結果をモニターする時にはやや低音が強すぎる感があり、イコライザで500Hz以下ぐらいのレベルを少し下げたくなってきます.(発声の良い男性アナウンサーの試験音声だと結構低音が響いて聞こえます)
- いろいろ置き場所を変えて試してみましたが、LCDモニターの裏に隠れるように置いた時には低音がこもって聞くに堪えない音になってしまいました. 無指向性なので、後方にも放射された音がLCDモニターと背後の壁の間で共鳴してしまったようです. どうやら音質的には整理整頓された広い机の真ん中に置くのがベストのようですが.......
- スピーカーを下向きに取り付けてあるので、誤ってコーン紙を傷つける危険は少ないでしょう.
- バッフル効果がどの程度のものかは、スピーカーを手に持って浮かして聞いて確認してみてください.
- 当社では下図のようなミキサー回路でステレオ信号をモノ・ミックスして再生しています.(パワーアンプとスピーカーの間に挿入します) 抵抗値は適当でかまいません. 抵抗挿入による特性の変化はありますが、それを気にするような高級なスピーカー・システムではありません.
- 原理的にはスピーカーの口径が小さいほど、コーン紙と設置面(机)の間の共鳴による周波数特性の凸凹は小さくなります. 公称径40mm〜50mm程度のパワーの入るスピーカーでもっと小型のものを作ってみても面白いでしょう. エンクロージャー部分は塩ビ管にこだわる必要は無く、アルミパイプなどを使ってもかまいません. ただし金属パイプを使用する場合はしっかり防振処理をしてください.
- 下図のような拡散体(Diffuser)を付け加える改良も考えられます.
- 大型化して置き場所に困ってしまうかもしれませんが、スピーカーを上向きにした下図のような構成も考えられます.
壁掛け型なら成立可能性があるかもしれません. ただし、エンクロージャー背面と壁との間に隙間があると、その部分の吸音力が音質に影響を与える可能性はあります.
- TV用に変わった形をした無指向性に近い特性のスピーカーを販売しているメーカーがあるのをweb広告で見かけました.
少し形状が大きくなってもかまわないのであれば、バウンダリー・スピーカーに類似した構成の下図のようなTV用無指向性スピーカーを簡単に製作出来ます.
ただし、このスピーカーに低域の周波数特性の改善効果はありません.(TV用としては問題無いでしょう)
- 必要なのは小型の密閉箱のスピーカー2ヶとスペーサー4ヶ(木片等でO.K.)と足になるものです. スペーサーの長さは2cm程度で良いはずです.
スペーサーの長さは厳密には無指向特性が得られる周波数の上限の波長との関係で決まるはずですが、TV用ならちょっと実験して適当に決めても問題ありません.
- エンクロージャーの形状は正方形が好ましいのですが、TV用なら長方形のものを使ってもまったく問題ありません.
- 2つのスピーカーは同相駆動します. スピーカーのインピーダンスが非常に低い場合/アンプのドライブ能力が低い場合は並列接続ではなく直列接続にしてください.
- コイズミ無線で製作に手ごろな小型の正方形の密閉型エンクロージャーを扱っているようです.(商品の入れかわりが激しいようで、いつの間にか別の製品に変わっているかもしれませんが)