トランジスタ技術誌記事補足:電話機 - パソコン接続アダプタ
トランジスタ技術(CQ出版)2006年5月号に掲載された記事「電話機 - パソコン接続アダプタの製作」(269〜270ページ)の補足説明です. 記事のアダプタを製作される際の参考にしてください. トランジスタ技術の記事はページ数の都合により詳しい説明が削られてしまいましたが,ごく基本的なブリッジ回路の応用ですので内容はどなたでも問題なくご理解いただけると思います.
このアダプタはパソコンのサウンドボードに電話機を接続するものです. 別の表現をするならば、パソコン用のヘッドセット(マイク、ヘッドホン)の代用品として電話機(のハンドセット)を使用するためのものです.(電話機のベルを鳴らすなどの制御は出来ません)
無線機と組み合わせて、電話機(のハンドセット)を無線機のヘッドセット(マイク、ヘッドホン/スピーカ)の代わりに使うことは可能ですが、無線機とNTTの固定電話回線との接続(フォーンパッチ)は出来ません.
余った電話機を2台接続してインターホン代わりに使う場合は、ePanorama.net の Use old phones as an itercom で紹介されているアダプタを用いてください. (電話機本体のベルを鳴らす代わりに)電子ブザーを呼び出し音発生に使ったアダプタは非常にシンプルですがなかなか巧妙な回路です.(直流等価回路) 極性を気にしないでアダプタを接続出来るように修正した回路でも問題無く動作するはずです.
配線の引き回しにオーディオ用の撚対線(よりついせん、ツイストペアケーブル)を使えば30m〜50m程度の距離でもノイズ等の問題無く使用可能です.
直列抵抗の値は大きめに設定して、回線電流を控えめにした方が良いでしょう. 専用のLSIを使った電話機は回線電流の値をセンスしてアンプ利得の補正をおこなっています.(回線電流が小さいということは、配線抵抗大→電話局までの距離が長い→信号減衰が大きい→アンプ利得を自動的に増やす)
- 電源はリップルやノイズが少なければ非安定化電源でもかまいません. もちろん電池(006P等)でもO.K.です.
- 電話との接続ラインには極性はありません. インターフェース回路から定電流ダイオード(CRD1)を通じて電話に直流電流を供給していますが、電話機は極性が反転しても正常に動作するようになっています.
- メモリー・ダイアル(電話帳機能)や留守番録音機能等を有する電話機は外部電源が無いと動作しない(電話回線から供給される電流だけでは動作しない)ものがあります. 詳しくは電話機の説明書をご覧下さい. 単機能の電話機は外部電源(ACアダプタ等)を必要としません.
- VR1(Null)はブリッジのバランス調整ボリュームです.
- トランスT1には橋本電気(サンスイ・ブランド)のST-71またはST-72を用いてください.
- Skypeに代表されるインターネット電話の端末接続の方法を下図に示します.
- トランジスタ技術誌の記事で製作例をご紹介したのは,図右下の電話機とパソコンのサウンドボードを接続するためのアダプタです.
- USB接続のソフトフォン用電話機接続アダプタ(図左下)も市販されています. 自動的に固定電話の通話とインターネット電話の通話の切り替えが可能です.
- Skypeではインターネットに接続されたパソコン間の通話は無料ですが,固定電話との通話は有償の付加サービスになります.(通信事業者やプロバイダが提供している050番号を付与したIP電話とは異なることにご注意下さい)
Skypeで通話するには通話用のヘッドセットまたはハンドセットが必要ですが,以下のようなパソコンとの接続方法があります.(他のソフトフォンも同様です)
- パソコンのサウンドボードにマイク付ヘッドセットを接続して使用する. ヘッドセットは廉価な製品がパソコンショップで販売されています.
- USB接続のソフトフォン用ハンドセットを用いる. 携帯電話のような形のハンドセット本体とSkypeのインストールCDを同梱したものが複数のメーカーから販売されています. 要はスピーカ,マイクを内蔵したUSB接続のA/D・D/Aコンバータユニットです.
- USB接続の市販のアダプタを用いて,電話機をパソコンとつないで通話する. Skypeの着信があると電話機のベルが鳴るものや,固定電話回線との自動切り替え機能のついている製品もあります.
- トランジスタ技術誌の記事の接続アダプタを作って,電話機をパソコン内蔵のサウンドボードに接続して使う.
他のインターネット電話ソフト(ソフトフォン)と比較して,Skypeには以下のような特徴があります.
- ・音質が良い
- Skypeの音声圧縮伸張アルゴリズムの詳細は公開されていませんが,通話音声を聞いた限りでは携帯電話などに用いられているパラメトリックな音声圧縮伸張方式(線形予測)ではなく,低圧縮率の瞬時対数圧伸あるいはADPCMを使っているものと思われます.(ADPCMはPHSに用いられている方式です)
- ・プログラムのインストール,セットアップが容易
- ファイル交換ソフトの技術がベースになっているだけあって設定は非常に簡単です. 最低限web閲覧に使うhttpプロトコルのポートが開いていれば使えるそうです.(ただし社内LAN環境では管理上の問題点となる可能性があります. 企業での利用には注意が必要です.)
- ・有償で固定電話との接続サービスが提供されている
- Skypeから固定電話へ電話をかけることも,逆に固定電話からSkypeへかけることも可能です. 米国の固定電話と通話する場合だと,米国内にある固定電話との接続ポイントを経由することになるので国際電話料金はかかりません. 通話先の国の国内電話料金+α程度の非常に安い値段で国際電話をかけることが出来ます.
2wireで双方向通信を実現するためのハイブリッド回路(2線4線変換回路)にはさまざまな形式のものがあります. トランジスタ技術誌の記事で取り上げた回路はブリッジ形式のものですが,それ以外の方式の回路もあります.
もっとも基本的なブリッジ形式のハイブリッドです. 抵抗4本のブリッジの一辺をトランスに置き換えたものです. モデムなどにはこの形式とOPアンプを組み合わせた回路が広く用いられています.(R=Z)
トランジスタ技術誌の記事でご紹介したアダプタの製作例に用いたハイブリッドです. アンテナ特性測定のためのアンテナ・インピーダンス・ブリッジにもこの形式の高周波ブリッジ回路が良く用いられます.(R=Z)
センタータップ(CT)付のトランスを用いた別の形式のハイブリッドです. これはブリッジではなく,信号の打ち消し回路になっています.
R=Zの時,Aポートに電圧を印加すると,V1=V2=V3となります. Bポートに現れる電圧はV3−V1=0となります.
トランスを2つ使ったハイブリッドです. 現在ではあまり用いられません. これもブリッジではなく,トランスを用いた打ち消し回路になっています.(R=Z)
Aポートに入力した信号は,キャンセルされてBポートには現れません.
トランジスタ技術誌の記事の接続アダプタをNTTの電話回線に接続することは出来ません.(パソコンのサウンドボードを電話回線に接続するような使い方は出来ません)
製作したアダプタは電話機とは6極モジュラーケーブルで接続します. パソコンとは通常モノラル・ミニプラグのついたケーブルで接続します.
市販の電話切換器(2回線1端末用)と組み合わせれば,1台の電話機をインターネット電話の通話と固定電話の通話に切り替えて使用することが出来ます. ただしマニュアル切換になります.
製作したアダプタと電話回線切換機と組み合わせて用いる場合は,2回線1端末用の切換器を用いてください.(サンワサプライ SWW-TEL2等) 1回線2端末用のものは使用出来ません. 電気店で販売されている切換器は1回線2端末用のものが多いので注意してください. 自動切換機能が付いている製品もありますが,それらは通常1回線2端末用のものです.
|
|
2回線1端末切換器
接続アダプタと組み合わせて使用可能
|
1回線2端末切換器
接続アダプタと組み合わせて
使うことは出来ません
|
6極モジュラーケーブル各種.
左から6極2芯,6極4芯,6極6芯. アダプタと電話の接続にはどれでも使用出来ます.
- 接続アダプタはPHSを使った「みなし音声接続」によるデータ通信,FAX送受信用のアダプタとして使用することも可能です. ハイブリッド回路を用いていない簡易型の接続アダプタよりも高速で安定した通信が出来ます.
- ノートパソコン内蔵モデムやノートパソコン用のモデム・カード(PCMCIA)の中にはループ電流検出による回線接続状態のチェックをおこなっていないものがあります. そのようなノートパソコンやモデム・カードでは定電流ダイオード(CRD)と直流電源を用いた回線電流印加を省略することが出来ます.(トラ技記事の接続アダプタ回路図中の定電流ダイオードは不要になります)
- トランジスタ技術誌の記事の接続アダプタをNTTの電話回線に接続することは出来ません.(パソコンのサウンドボードを電話回線に接続するような使い方は出来ません) 無理に部屋の壁にある電話ジャックに接続すると,電話局から送出される100Vppを越える高電圧信号によりアダプタが壊れるだけでなく,電話局側の設備を損傷する可能性があります.
- 端末設備等規則の技術基準を満たし,電話会社の適合検査に合格した機器以外は電話回線に接続してはいけません.
- 電話回線のインターフェース仕様に関してはNTTの技術参考資料(電話サービスのインタフェース)をご覧下さい.
電話回線シミュレータを用いて測定した呼び出しベル信号の波形.
100Vppを越える信号が電話回線に印加されることに注意してください.
測定に使用した電話回線シミュレータ.
テクノシステム製 TL-1010(この製品はもう生産・販売されていないようです)