ハウリングに困ったら − 指向性マイクロホンの使い方(とハウリングしにくいスピーカーの話)
最近のカラオケは性能の良いマイクを使っているので、以前よりはハウリングに悩まされることは少なくなっていると思います. 一般的な拡声システムでも性能の良いマイクを正しく使えば、かなりハウリングに対する耐性を上げることが出来るはずです. いわゆる「ハウリングに強い(ハウリングしにくい)」マイクとその使い方をご紹介します.(オマケにハウリングしにくいスピーカーの話も少々)
当社のハウリング・キャンセラの研究開発に関してはこちらのページをご覧ください.(固定マイク用のハウリング・キャンセラです)
- 性能の良いプロ用の高性能マイクロホンを正しく使えば、よりハウリングをおこしにくくすることが出来ます.(ただしお値段はそれなりです)
- 購入する場合、プロ用の「ボーカル向けの単一指向性ダイナミック・マイクロホン」を選んでください.
- 具体的な製品としては、例えばオーディオテクニカ(audio-technica)のAE4100やAE6100があります.(ただしAE6100は単純な単一指向性ではなくハイパーカーディオイド特性) どちらも実売価格は1万5千円前後です. 通常は家電量販店などでは取り扱っていませんが、インターネット通販で容易に購入可能です. プロ用の製品なのでコネクタにやや特殊なプロ規格のものを使用していますが、カラオケや一般の音響機器に接続するための変換コネクタや変換ケーブルもインターネット通販で購入できます.
- AE4100はメーカーの担当者が「簡単にはハウリングしない」と太鼓判を押す性能です.(ただし、「正しい使い方をした時には」という条件がつきますが)
タモリ倶楽部のマイク特集でAE4100が紹介されたことがあるそうです.
- AE4100/AE6100は重い(310グラム)のが玉に瑕ですが、ハウリングだけでなく息吹き雑音に強いのも良いところです. オンライン・ショッピングサイトで、AE4100とポップガード(ポップフィルター)をセットにして販売しているところがありますが、ポップガードはリボン・マイクやコンデンサ・マイクに取り付けて使うものです. ボーカル用のダイナミック・マイクはもともと口に近づけて使うのを前提に設計されているのでポップガードは不要です. ポップガードをつけると、その分マイクと口の距離が大きくなり音質が変化してしまいます.
- AE4100やAE6100などのボーカル向け指向性マイクロホンは、口元に近づけて使用するのが基本です. マイクスタンドに取り付けて使用する場合も、人間がマイクに顔を近づけて使わなければなりません. 天井からマイクを吊るして合唱を録音する〜というような用途にはまったく向きません.
- ボーカル用のマイクは、周波数特性も口にマイクを近づけて、「かぶりつき」の状態で使用するのに適したものになっています.
- 指向性マイクロホンはお尻の方を握ってください. 頭の部分を持ってはいけません.
指向性マイクの風防の中のカプセル(ユニット)は裏側に空気抜きの穴が空いているような構造になっています.(振動板の背面は密閉されていません) カプセル後方からの音も拾って干渉により指向特性を実現するための構造です. 頭の近くを握ると良好な指向特性が得られません.
- AE4100(オーディオテクニカ)のような一般的な単一指向特性マイクは下図のような指向特性を持ってます. マイクのちょうどお尻の方向の感度が小さいのが特徴です. なお、下図は周波数1kHzの特性で、周波数が低くなるほど指向特性がにぶって無指向特性に近づいていきます.
- 単一指向性マイクロホンは、マイクのお尻をスピーカーに向けたときにもっともハウリングしにくくなります. スピーカーと向かい合うようにして使う場合に最適の特性です.
- スピーカーが聴衆の後方にある光景は想像しにくいかもしれませんが、聴衆のいるエリアが限定されている場合、単一指向性マイクロホンは下図のような配置でハウリング・マージンを稼ぐことが出来ます.
- 小さなカラオケBOXなどでの最適配置を考えると下図のようになるでしょう. わんわんイフェクタ(リバーブ等)をかけるカラオケでは部屋の音響特性などまったく気にしませんから、スピーカーを設置した以外の壁面はすべて吸音面にしてしまってかまいません. マイクのお尻が正確にスピーカーの方向に向くようにマイクスタンドを用います.(図中の△印は吸音面を表すもので、楔形の吸音材を設置するという意味ではありません)
- AE6100(オーディオテクニカ)は下図のような指向特性を持っています. 正面の感度がもっとも高いのはAE4100と同じですが、マイクのほぼ真横の感度が最小となるのが特徴です. メーカーではこの指向特性を「ハイパーカーディオイド特性」と呼んでいます.(図は1kHzの特性ですが、周波数が低くなるほど指向特性がにぶってきます)
- AE6100を垂直に持てば、スピーカーの方向にかかわらずハウリングに強くなります. ただし、感度の高い正面に口を近づけるためにはマイクに向かって屈みこむような姿勢になるのは少々窮屈です.
- 別の持ち方、スピーカー配置でもAE6100の特性を活かすことが出来ます.(下図参照、マイク正面のフキダシのように見えるのは人間の頭です)
右の図のような話者の両脇に2つのスピーカーを置いた配置は講堂、講演会場などでよく見かけるものです. AE6100はそのような場所で使用するマイクとしても適した指向特性です.
このようなスピーカー配置の場合は横から見てマイクを傾けて使ってもかまいません.(マイクが水平になってもO.K.)
- オーディオテクニカ(audio-technica)には同様のハイパーカーディオイド特性を有するPROシリーズという製品もあります. 名前はPROですが、一般コンシューマー向けでトークスイッチ(オン/オフ・スイッチ)付き、変換ケーブル付属です. こちらを検討されても良いかもしれません. ただしPROシリーズは詳細な指向特性のデータ(グラフ)が公開されていないので、どの程度の性能なのか当社では未確認です.
- AE4100/AE6100の資料(通常、距離1mでの測定結果)を見ると、200Hzぐらいから下の周波数特性がダラ下がりになっていますが、これは特性が悪いのではありません. 口にマイクを近づけて使用した時にはほぼフラット、あるいは若干の低域強調の周波数特性になります.
- このような見かけのスペックの問題が生ずるのは、ボーカル用の単一指向性マイクロホンはマイクと音源の距離で周波数特性が変化するからです. ちゃんとした製品は実使用状態(近距離)で最適な特性が得られるように設計されています.
- AE4100/AE6100をカラオケや一般の音響機器に接続するのには、下図のような市販の変換ケーブルを用いてください. フォーンプラグはモノラル(不平衡接続)であることに注意してください. ステレオのフォーンプラグに変換するケーブル(ステレオ・プラグを用いた平衡接続ケーブル)は使用できません.
- 当社ではAE4100用に小型トランスを用いた変換アダプタ(平衡/不平衡変換)を作成したのですが、使用したトランスの特性(巻線比/昇圧比)が適切なものではなく、ゲインのロスが大きくなってしまいました. 長々とケーブルを引っ張りまわして使用するのでもなければ、上図のような単純な片側接地・不平衡出力の変換ケーブルで十分でしょう.
パソコンやビデオカメラなど、プラグインパワーのマイク入力端子では使用できません |
- カタログ等でダイナミック・マイクロホンは「パソコンやビデオカメラなど、プラグインパワーのマイク入力端子では使用できません」という表記をみかけることがあります. これはパソコンやビデオカメラなどの、マイクに直流電流(電源電流)を供給するマイク入力回路になっている機器にはダイナミック・マイクロホンは使えないということです. 無理に接続して使うと、最悪の場合マイクが壊れます.(振動板が損傷したり、ボイスコイルが焼き切れます)
- スピーカー側でも若干のハウリング対策は可能です. ある程度の大きさの部屋や屋外で拡声装置を使用する場合、以下のようなスピーカー・システムを検討されてみてはいかがでしょうか? 自宅にかなり大き目のカラオケ・ルーム/音楽練習室を作る場合にも適用可能だと思います.
- トーンゾイレ(ドイツ語 Tonsaule)という多数のスピーカー・ユニットを縦積みにしたシステムがありますが、これを横倒しにして並べると(水平面内の特性は)平面スピーカーと等価になります. 音波の拡散が少ないので、小さな入力パワーでも後方の聴衆の位置で十分な音圧レベルが得られます.
- ハウリングに強い(ハウリングしにくい)と称して、いわゆる平面スピーカー/平面振動板スピーカーを販売している会社がありますが、そのような会社の製品程度の大きさでは十分な効果が得られません. ハウリング対策に横倒しトーンゾイレを用いる場合でも幅は最低1m以上、出来れば2m前後かそれ以上の大きさが欲しいところです.(大学で研究のために講義室に平面スピーカーを設置したところでは、壁を埋め尽くすほどの大きさのものを用いています)
- 横倒しのトーンゾイレと、両サイドの感度の小さいAE6100を組み合わせ、(屋内では)さらにスピーカーの対面の壁に吸音材を設置すればハウジングマージンをかなり稼げるはずです. 実験をしたわけではありませんが、検討に値する構成ではないかと思います. ただし、このような構成は横幅のある大き目の部屋でなければ実現できません. ステージ上の機材の配置の制約から、このような構成はなかなか実現しがたいかもしれませんが、これが音響的に素直に考えたハウリングに強い拡声システムになります.(図中の△印は吸音面を表すもので、楔形の吸音材を設置するという意味ではありません)