音の力で発電する実験の小学校・中学校の理科・物理の先生向けの説明

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当社のweb上の簡単な実験のページ
音の力で発電する実験
空気圧で発電する実験
音波でエネルギーを伝送する実験
振動でLEDを光らせる実験


●音・声で発電することは可能か?

この質問は以下の2つの問いを含んでいる.

Q1.音・声のエネルギーを電気エネルギーに変換することは可能か?
Q2.音・声のエネルギーから変換した電気エネルギーを有効に活用することは可能か?(音・声からエネルギー源として有効に活用できるほどの電気エネルギーが得られるのか?)

それぞれの問いに対する答えは次のようになる.

A1.可能である. 何十年も昔から使われているダイナミック・マイクロホンは音・声のエネルギーを電気エネルギーに変換する装置である. スピーカーをダイナミック・マイクロホンの代用にすることも可能である.(ダイナミック・マイクロホンは、現在幅広く用いられているエレクトレット・コンデンサ・マイクロホンとは構造、動作メカニズムが異なる. ダイナミック・マイクロホンとエレクトレット・コンデンサ・マイクロホンの違いは自分で調べてください.)

A2.可能/不可能のどちらかを選べというのなら、答えは不可能である. 断定を避けるのであれば、事実上不可能である、または現実的・実用的では無い〜という答えになる. なぜならば音・声のエネルギーはあまりに微々たるもので、人間が有効に活用することが非常に難しいからである.

音・声で発電するマイクロホン AT-VD3 (オーディオテクニカ)音・声で発電するマイクロホン AT-X3 (オーディオテクニカ)
音・声で発電するマイクロホン(ダイナミック・マイク)の例
カラオケ、拡声装置用です. 発電するマイクなので電池は不要です. 外部からの電源供給も不要です.
オーディオテクニカ AT-VD3, AT-X3 (いずれも二千円程度で購入可能です)
これらのマイクはパソコンのマイク端子・ヘッドセット端子に接続して使用するためのものではありません.



ダイナミック・マイクロホンの役割は音波を電気信号に変換することであって、音響エネルギーを変換して得られた電気エネルギーでマイクに接続したアンプやカラオケを動かしているのではありません.(アンプ、カラオケは電源からのエネルギーで動作します)

パソコンのマイク端子接続用として販売されているマイクは、ほとんどがパソコン側から電源を供給して動作するエレクトレット・コンデンサ型のものです.(パソコンのマイク入力端子が電源供給機能を有しています)

●音・声のエネルギーから変換した電気エネルギーを有効に活用することは本当に困難なのか?

太陽光エネルギーや風力エネルギーと比較すると、音のエネルギーがあまりに小さく利用困難であることは一目瞭然である. それくらいは小学生でも理解できる.

日中の気温が零下になることのない首都圏であれば、冬でも風の無い天気の良い昼間に公園の芝生の上に寝転がっていれば体がぽかぽか温まってくる. 太陽光がそれだけのエネルギーを持っているということである. 積雪地にスキーにでも行けば、日焼け・雪焼けして肌が黒くなるし、雪からの照り返しの紫外線で目を傷める. 日焼けとは、要はヤケドであるから、このことからも太陽光エネルギーの大きさが分かる.

風のある日には木立が揺れるし、折り紙で作った風車も良く回る. そのような物体を動かすほど風力エネルギーは大きい.

一方、大音量で音楽を再生しているスピーカーの前に立っても、体がポカポカ暖まったり、パタパタ衣服がはためいたりすることは無い. 耳で聞いて耐え難い大きな音であっても、音響エネルギーの存在を(体全体で)体感することは出来ない. それだけ音のエネルギーは小さいし、その小さな音を聞き取ることの出来る耳という感覚器は感度が非常に高いのである.

ロケット打ち上げの時に騒音で搭載した衛星が壊れたり、閉管(パイプ)の中を伝わる音を使ってエネルギー伝送をしたり〜ということはあるが、これらはあくまでも極端な大音圧での特殊な事例である. ロケット打ち上げ時と同じ大きさの音を人が聞けば即座に、かつ永久に聴力を失う.(蝸牛内の有毛細胞が回復不能な損傷を受ける) 他人の耳にパイプをあて、もう一方の端を自分の口にあてて糸電話で話すようにして叫べば相手の鼓膜が破れる.

音のエネルギーを電気エネルギーに変換するダイナミック・マイクロホンという装置は、あなたが生まれる前からこの世に存在するのに、いまだに人類は音の力から得た電気エネルギーを(エネルギー源として)有効に活用することが出来ていないことを忘れないで欲しい.

●大きなスピーカーの近くで振動を感じることがあるから、音のエネルギーはそれだけ大きいのではないか?

それはスピーカーの筐体から床に伝わった振動か、室内に発生した定在波による圧迫感ではないのか?
屋外(開放的な空間)で聞く大型車の騒音は確かにうるさい. しかし振動や圧迫感は感じないし、音響エネルギーが「大きい」とは思わないはずである.

●技術が進歩すれば、音・声のエネルギーから変換した電気エネルギーを有効に活用出来るようになるのではないか?

LSIの低消費電力化は著しいので、超低消費電力のセンサー/マイクロプロセッサを動かすための電源としてなら音のエネルギーを使える可能性はある.(センサー・ネットワークへの応用) しかし音から変換して得られた電気エネルギーを一般の電気・電子機器やモーターの電源などとして利用出来る見込みは無い. もちろん携帯電話の充電も出来ない.

●技術が進歩すれば、音・声のエネルギーから変換して得られる電気エネルギーはどんどん大きくなるのではないか?

違う. そんなことは小学生でも理解できる. 次のようなことを考えてみれば良い.

 ・技術が進歩したら、ソーラー電卓やソーラー腕時計で携帯電話を充電できるようになるのか?
 ・技術が進歩したら、ソーラー電卓やソーラー腕時計の太陽電池の発電量がどんどん増えて、ソーラー電卓やソーラー腕時計が原子力発電所の代わりになるのか?

ソーラー電卓やソーラー腕時計に使われている太陽電池の性能が上がっても、太陽光エネルギーから電気エネルギーへの変換効率は100%以上にはならない. 太陽から地球に降り注ぐ太陽エネルギーの大きさは一定であるから、太陽電池から得られる電気エネルギーの大きさの上限は、単純に太陽電池の面積で決まる. 原子力発電所なみの電力を太陽光発電で得ようと思ったら、広大な砂漠か平原にでも太陽電池パネルを並べるしかない.(見方を変えれば、エネルギー密度の低い太陽光発電はある意味効率の悪い発電方式だが、原子力発電よりもずっと安全ということになる)

太陽が今より何十倍・何百倍も明るく輝くようになったり、太陽と地球の距離が極端に小さくなったりすれば話は変わってくるが、それでは地球上で人間は生きられないだろう.

同様に音源のエネルギーが一定であれば、エネルギー変換効率が100%になったとしても、音・声から得られるエネルギーの大きさは音を受ける振動板の面積により制約される. 小さな音源であれば、周囲を完全に振動板で覆うことは可能であるが、それでも音源の音響エネルギーの大きさ以上の電気エネルギーを得ることは出来ない.

●しかし、声のエネルギーで携帯電話を充電できると言う人がいるではないか?

世の中には小学生でも分かることを理解できない大人がいるのです. 大変残念なことですが、事実は事実として小学生・中学生に教えてあげてください.

●声で発電する装置を口にあててLEDを間欠的に光らせるのをTV番組で見たことがあるから、声で携帯電話を充電できるくらい発電できるというのは本当ではないのか?

TVで見た声で発電する装置なるものを騒音のうるさいところに持っていったら、発電量が増えてLEDが光りっぱなしになるのか? その装置を借りてきて実験してみればよい.

TVで見た声で発電する装置なるものを借りられなくても、次のような実験は出来る.
折り紙で作った風車に声を出しながら(声帯を振動させながら)息を吹きかけてみてください. 声で風車が回ったことになるのだろうか?
ピロピロ笛をたくさん口に咥えて声を出しながら(声帯を振動させながら)息を吹き込んでみてください. 声で笛がピロピロ動いたことになるのだろうか?
折り紙で作った風車やピロピロ笛を騒音のうるさいところに持っていったら、騒音のエネルギーで激しく動くようになるのだろうか?

注:口をすぼめてウ゛ウゥゥゥ〜と言うと、長く息を出しながら声帯を振動させることが出来ます

真面目に実験をしたいというのであれば、空気圧で発電する実験 が可能です. 株式会社音力発電が公開しているデモ動画と同じ実験が簡単に出来ます.
当社がご紹介している空気圧で発電する実験は声で発電していることになるのでしょうか?

●いかに技術的に困難であっても捨てられている音のエネルギーの有効活用を真剣に考えるべきではないのか? 無駄はいけないのではないか?

ソーラー電卓は使用時以外は発電した電気を捨てていることになるのか? それは無駄なことなのか?
月に数時間でも日光にあてれば完全に充電されるソーラー腕時計を、充電が終わっても明るいところで使用し続けるのは発電している電気を捨てていることになるのか?
人は眠っていても熱を放出している. つまり人の体温は無駄になっているのだから、捨てられている体温を有効活用するため人は体温発電機(?)を身につけなければならないのか?(それは人としての義務なのか?)

捨てられている音のエネルギーなるものは本当に捨てているものなのか?
それが無駄だというのなら、なぜ捨てられている熱エネルギーの有効利用を考えないのか?
人間が作った機械装置から本来の目的以外に放出されているエネルギーの大きさは、音響エネルギーよりも熱エネルギーのほうが桁違いに大きいのに、音響エネルギーの有効利用ばかりを取り上げる特別な理由があるのか? 熱エネルギーより音響エネルギーの利用を優先して考えるのは正しいことなのか?

●エコロジー観点から、やはり捨てられているエネルギーの有効活用は真剣に考えるべきではないのか? 

「捨てられているエネルギー」なるものは、本当に人間が意図的に捨てているものなのか? 正しくは散逸して無駄になってしまったエネルギーではないのか?

人間が作った機械装置から本来の目的以外に放出されているエネルギー/散逸しているエネルギーの大部分は熱エネルギーである. 無駄になっている熱エネルギーの回収、有効利用を考えるのは良いことだが、短絡的に人が熱エネルギーを捨てていると表現するのは適切ではない.
 
散逸している熱エネルギーの回収をきちんと検討した上で、回収コストが利益を上回るために回収を諦めたのなら、それを「エネルギーを捨てる」と呼ぶのは問題無いだろう.
だがエネルギー回収(と回収コスト)を考えもせずに、「エネルギーを捨てている/無駄になっている」と騒ぐのは無駄である.(そんな無駄な発想は捨てるべきである)

●自分が使っているオーディオ・アンプの出力は30W(50W)である. 30W(50W)は白熱電球1ヶ分の電力に相当するのだから、本当は音のエネルギーはそれだけ大きいのではないのか?

レベル変動の大きい音楽を聴いている時のアンプの「平均出力」は、一般家庭で常識的な使用方法をしていれば1Wにも満たない. しかもアンプの平均出力が1Wだったとしても、そのほとんどはスピーカーで熱となっている. スピーカーから放射される音響エネルギーは1Wの数パーセントにも満たない. しかも音響エネルギーは媒質(空気)を伝わって空間に広く拡散される. したがって人が音楽を聴いている場所での、単位面積あたりの音響エネルギーの大きさはやはり微々たるものにしかならない.

●発電手法としては効率的・実用的ではなくても、騒音低減の手法として音のエネルギーを電気エネルギーに変換するのは良いことではないのか?

騒音低減のためなら、電気エネルギーに変換するよりも熱エネルギーに変換する方が効率的・実用的です.
グラスウールのような吸音材を使用すれば音を伝える媒質である空気(を構成する気体)の分子運動を熱エネルギーに変換して吸音・消音することが可能です.(当然ながら音から変換された熱エネルギーは温度上昇を測定不可能なほど微々たるものです)
電気エネルギーへの変換で消音をおこなおうとするのは無駄な発想です.

●人はなぜ会話するときに大汗をかかないのか?

人間の声から携帯電話を充電できるほどのエネルギーを取り出せる(と信じる)のなら、なぜ人は会話するとき(声を出すとき)に大汗をかかないのでしょうか?
声に携帯電話を充電できるほどのエネルギーがあるのなら、人間が声を出すのにはそれと同等以上のエネルギーが必要となります. そのエネルギーは体内で作り出すしかありませんから、過剰な熱の発散のため・体温上昇を防ぐために大汗をかかなければならないはずです.

携帯電話の充電が可能な手回し発電機内蔵の防災ラジオが市販されていますが、携帯電話を満充電するまで発電機のクランクを回し続ければ汗だくになるであろうことは、小学生でも容易に理解できるはずです.

ちなみにスピーカーという音を発生する装置は、入力されたエネルギーのたかだか数パーセント程度を音響エネルギーに変換するだけで、のこりはスピーカー内部(ボイスコイル部分)で熱となります.

●携帯電話を充電するとはどういうことか?

携帯電話は電源を切らない限り未使用時(非通話時・非データ通信時)も間歇的に基地局とデータのやり取りをしています. 携帯電話会社は端末(携帯電話)がどの基地局のカバーエリア内に存在するかを常に把握して通信制御をおこなっています.
したがって携帯電話は未使用時であっても常に一定の電力(電流)を消費しています. この非通話時・非データ通信時時の消費電力(電流)を上回る電力(電流)を供給しない限り内蔵電池を充電することは不可能です.
逆に言えば携帯電話を充電出来る装置からは、基地局との制御のための通信に必要な平均電力(平均電流)が得られまます. 言い換えれば、充電器は間歇的ではあるものの数十ミリワット〜百ミリワット(10mW〜100mW)オーダーの送信出力の無線機を動かせる平均電力(平均電流)を発生しています.


■熱がすべて

企業では工場・生産ラインの合理化・経費節減に関して様々な取り組みがおこなわれていて、専門のコンサルティング会社もあるくらいです. その中でエネルギー・ロスの低減、省エネの対象として真っ先に取り上げられるのは熱の問題です.
物を作るのには多くの加熱工程が必要とされますが、熱のロスを無くせば直接原価低減につながります. 冷却や保温に関してもエネルギーロス(熱のロス)対策は原価低減に寄与します. 加熱工程など無いオフィスでも断熱や太陽光(赤外線)の遮断などの工夫で空調コストを下げることが出来ます. 振動や音響エネルギーが問題とされることなどありません.

■音響学で最初に学ぶこと

音響学で最初に学ぶことは、音とは空気を媒質とした粗密波で、音による圧力変動は低気圧・高気圧による大気圧の変化とは比較にならないほど微小であることです. 当然、音のエネルギーはそれだけ小さいのです.

■例外的に音で「物が動く」こともあります

人間の耳で音として聞こえるよりも振動として感じられるような波長が数メートルを越える大音圧の超低周波音では、室内に発生した定在波、共鳴・共振現象のために窓などがガタガタ揺れることがあります. これらは発電風車や大型エンジンの騒音、滝の音などによって生じるあくまでも例外的な事象です.


▲「音力発電」は株式会社音力発電の商標です

音力発電という言葉を普通名詞であるかのように扱っているwebサイトがいくつかありますが(下記参照)、「音力発電」は株式会社音力発電の商標です.
他社の商標を侵害するような行為をしてはいけません.

慶應塾生新聞 https://www.jukushin.com/archives/44460 「世界は変えられそうだと思った」 〜Red Bull Basement2020日本代表hummingbird袴谷優介さん〜
Forbes JAPAN https://forbesjapan.com/articles/detail/38652 学生イノベーターの開発に密着 「音力発電」で世界に挑むまで|前編
Forbes JAPAN https://forbesjapan.com/articles/detail/39020 世界は変えることができるのか? ある学生イノベーターの気づき|後編

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