音の力で発電する実験
簡単な回路を使って、音の力で発電する実験が可能です. 発電した電気エネルギーで物体(電流計の針)が動きます.
肺からの空気圧で発電するのではなく、本当に空間に拡散された音波で発電する実験です. ご興味をお持ちの方は空気圧で発電する実験も試してみてください.
教育機関からこのページにアクセスされる方が多いようなので、音の力で発電する実験の小学校・中学校の理科・物理の先生向けの説明のページを作成しました.
音の力で発電する実験(トランスを使った改良版の回路)のYouTube動画
スピーカーをマイクロホンの代用品に用い、スピーカーの起電力(交流電圧)をゲルマニウムダイオードで整流して直流(脈流)に変換した後、直流電流計の針を動かします.
回路図PDF sound_power_generator.pdf (10KB)
4ヶもゲルマニウムダイオードを使った回路を組むのが面倒であれば、とりあえず簡略化した下記の回路で実験してみても良いでしょう.
回路図PDF simple_sound_power_generator.pdf (10KB)
- スピーカー
- 口径8cm〜16cm程度のスピーカーを用意してください. エンクロージャー入り(箱入り)のものが望ましいのですが、無ければ裸のユニットでもかまいません.
- 電流計
- フルスケール50μA〜100μA程度の直流電流計. 例えば秋月電子通商のSD-50(通販コードM-05314)、SD670(通販コードM-05315)などがあります.
より高感度のものを使えば針がもっと良く振れます. 学校の授業などで実験する場合は、物理実験に使用する高感度の検流計を使えば良いでしょう. たいていの学校の物理実験室の備品の中に検流計があるはずです. 電池で動くアンプ内蔵検流計は使わないてください.
- ゲルマニウムダイオード
- 例えば秋月電子通商の1N60(通販コードI-05507)など. まぎわらしいことに秋月電子通商では同じ1N60という名称のショットキーバリアダイオード(通販コードI-07699)も扱っているので取り違えないでください.
ゲルマニウムダイオードは熱に弱いので、ハンダ付けする時には放熱用のクリップを使うか、リードを長く伸ばしたまま使用してください.
50μAの電流計の端子金具にゲルマニウムダイオードを直接ハンダ付けしています.
右の写真程度の大きさのスピーカー(直径120mm)と組み合わせれば、確実に実験できるはずです.
- スピーカーを口に当てて、近所から苦情が来るくらいの大声で叫んでください. かすかですが電流計の針が動きます.(電流が流れます)
注:大声で叫んでも針の振れは本当にごくわずかです!
デモ動画 sound_power_generator_demo1.wmv (1Mbyte) sound_power_generator_demo1.flv (7Mbyte) sound_power_generator_demo1.avi (24Mbyte)
ノートパソコン内蔵カメラで録画したため映像が非常に不鮮明ですが、かすかに電流計の針が振れていることが分かります(再生時は大音量にご注意!)
これが本当のインチキ無しの「ああああああっ!」という声で発電!!する実験です
スピーカーにもっと口を近づけて、保護グリルに唇がくっつくくらいにして叫べば針の振れが良くなるはずです
- スピーカーを口から離したときにはどうなるか試してみてください.
- 大きなホーン(メガホンのお化け?)を作って、複数の人が同時に叫ぶとどうなるか学校で実験してみるのも良いでしょう.(スピーカーをホーンの小さい口に取り付け、大きい口の方からみんなで一緒に叫びます) ホーンの効果を得るには上手に設計する必要があります.
- 大きな騒音のある高架下や鉄道の線路脇に持っていって針が振れるかどうか試してみてください.
- 物理現象についての理解を深めたい方は、逆二乗則について調べてみてください.(逆二乗則と呼ばれるものはいくつかあるようですが、ここで言っているのは波動現象の逆二乗則のことです)
- スピーカーから発生した電力の大きさを調べてみてください. 電流計の内部抵抗と針の振れ(電流値)から、大まかな見積もりが可能です.
電流計の内部抵抗の値は説明書を見て調べてください. テスター/デジタルマルチメーターを使って直接 電流計の抵抗値を測定しようとしないでください. 針が振り切れて壊れる可能性があります. 冗談ではなく、大型のメーターでは針が曲がります.(最悪の場合、コイルが焼き切れます)
- 低電圧(フルスケール2.5V〜10V程度)の交流(AC)電圧レンジのあるアナログ・テスター(例えば三和電気計器 YX-361TR)を使っても実験可能です. デジタルマルチメーターを使ってもスピーカーで発電可能なことを確認できますが、デジタルマルチメーターは電池(またはAC電源)で動いているので、デモとしてはインパクトが薄いかもしれません.
- アナログ・テスターも抵抗測定用の電池を内蔵していますが、もちろん電池無しで実験可能です.
- 30年以上前になりますが、高校の学園祭のときにアマチュア無線クラブでこの展示をしました. その時には日置電機のテスターF-75を用いました.
一つ部品を追加して回路を改良すれば、近所迷惑な叫び声を出さなくても実験可能です. 下図のように橋本電気のトランス(サンスイ・ブランド)ST-32を追加してください. 適当なインピーダンス特性のもので良いのですが、ST-32が一番入手しやすいと思います.(トランジスタ式のアンプ、ラジオ等の電子工作に使う定番の部品です)
インピーダンスの整合が取れて(昇圧して)電流計の針が良く振れるようになりますが、それでも電力としてはごくわずかなものです.
もちろんスピーカー/トランス/アナログ・テスター(交流電圧レンジ)の組み合わせで実験してもかまいません.
回路図PDF improbed_sound_power_generator.pdf (56KB)
トランス ST-32(橋本電気、サンスイ・ブランド、8Ω:1200Ω CT)
8Ω側をスピーカーに接続します
1200Ω側のセンター・タップは使用しません
秋月電子通商などで扱っています
トランスのセンター・タップを使ってゲルマニウム・ダイオードの数を2ヶに減らした回路にすることも可能です.
トランスとゲルマニウム・ダイオード2ヶを使った、音の力で発電する実験の回路の製作例
デモ動画(wmvは解像度がflv, aviの半分です) improved_ver_demo.wmv (2Mbyte) improved_ver_demo.flv (8Mbyte) improved_ver_demo.avi (23Mbyte)
音の力で発電する実験(トランスを使った改良版の回路)のYouTube動画
改良版の回路なら近所迷惑な大絶叫をしなくても実験可能です
- 音の力で発電して発生する電力は、(電流)X(電圧) で求めることが出来ます. 電圧は電流計の内部抵抗と電流値(電流計の測定値)から計算出来ます. (電圧)=(内部抵抗)X(電流)
です. 結局、発生電力は (内部抵抗)X(電流)X(電流) となります.
- 内部抵抗を10kΩ、発生電流を10μAと仮定して計算すると、(発生電力)=10kΩ X 10μA X 10μA=10 x (10^3) x 10/(10^6)
x 10/(10^6)=(10^6)/(10^12)=1/(10^6)=0.000001[W]=1[μW]となります.
- 以上は非常に甘い見積もりであって、小型スピーカーを代用マイクとして用いて現実的な環境で現実に発生可能な電力は nW (ナノ・ワット)のオーダーになるでしょう. 電卓や腕時計に使われている小型太陽電池と比較して、どれほど発生電力が低いか調べてみると良いと思います.
- 口元とスピーカーの周囲をパイプまたはカップ状のもので完全に覆って(ほぼ密閉して)実験してはいけません. そのような状態では音波ではなく、肺からの空気圧で発電していることになります. 声帯を振動させずに、フッフッフッと息を吹き込んでも電流計の針が振れるようでは、実験方法が間違っています. それでは音波で発電する実験になりません.
- 特殊な条件設定でおこなった実験から、恣意的な結論を導き出してはいけません. 実験でインチキはしないでください. 音波は空間に拡散するものです. 逆二乗則を勉強してください.
- ご興味をお持ちなら、別のページでご紹介している空気圧で発電する実験も試してみてください.
- 紙コップを使った簡単な糸電話でうまく通話が出来るのは何故かを良く考えてみましょう. 紙コップの中ではどんな物理現象がおきているのでしょうか?
- 糸電話で口/耳と紙コップの間に大きな隙間があったらどうなるでしょう? うまく通話できるでしょうか?
- 圧電素子を使った発電装置を口にあててLEDを光らせるデモをしている会社がありますが、写真を見るとその装置には空気漏れを防ぐクッションがついています. 公開されているビデオを観察すると、少し頬を膨らませて(圧力をかけて)勢い良く「ア゛ア゛ア゛ア゛〜」と発声していることから、十分な空気漏れ防止・音漏れ防止の効果があるようです. このアイデアを糸電話に応用すれば、今までよりも大きな音で通話が出来るでしょう.(隙間を無くすクッションをつけた直径の大きな紙コップを使えば性能が上がるはずです)
- 「頬を膨らませて」声を出すというのは、いったいどういう状態なのか良く考えてみてください. 普通に会話するときに、「頬を膨らませながら」話すことは可能でしょうか?
- 壊しても良いスピーカーがあれば、コーン紙(振動板)を軽く指で突ついてみてください. 音の力で発電する代わりに、振動で発電する実験が出来ます. さらにコーン紙に小さな錘を取り付けて、手に持ったスピーカーを小刻みに振ったり、振動する装置に付けて実験してみるのも良いでしょう.(錘はセンターキャップの部分に接着するなどしてください)
- 下図のスピーカーの構造はあくまでも模式的に表したものです. 実際のスピーカーの内部構造とは異なります.
- 上右の図は見方を変えれば一種の地震計ですね.(本物の地震計はちょっと異なるサーボ式の構成ですが)
- 今はマイクロホンといえば、廉価で特性の良いエレクトレット・コンデンサ・マイクロホンが広く使われていますが、昔のトランシーバーやインターホンには小型スピーカーをマイク兼用としていたものがありました. それらの製品はずっと昔から音の力で発電していたことになります. 現在、直径1cm〜3cm程度の樹脂コーン(樹脂振動板)を用いた非常に小型のスピーカーが販売されていますが、それらもマイクとして使用可能です. 特性を気にしなければ、ダイナミック型のイヤホンに大声でしゃべってもマイク代用になります.
- そもそも、この世の中にはダイナミック・マイクロホンという名前の「発電する」マイクが存在します.(ただし起電力は極めて微小です) ダイナミック・マイクロホンが「発電している」ことを知らない人が多いのは大変残念です.
- コンデンサ・マイクロホンは発電しません.
- 自動車のエンジン(ガソリン・エンジン)を例にとって、模式的にエンジンから発生する音響エネルギー(騒音)の大きさをあらわすと下図のようになります.
- 振動エネルギーの一部が音波として空間に放射されるにすぎないので、人が耳で聞いて耐えがたいような大騒音であっても他のエネルギーと比較すると音響エネルギーの大きさは微々たるものです. 一般的には音が発生する一番大きな要因は物体が振動することですから、振動エネルギーが音響エネルギーの源となります.(他に爆発/破裂や乱流によっても音は発生します)
- 人間が作った機械装置から一番無駄に放出されているのは熱エネルギーです. 熱エネルギーを100%近く回収出来るようになったら、「無駄になっている」音響エネルギーの有効活用を考えてみるのも良いでしょう. いつかそんな時代が来るのを夢見てみたいものです.(まあ、どうせ夢を見るならば、もっとマシな実現可能性の期待を持てそうな夢を見た方が良いと思いますが)
- 真面目に話をすると、音波は媒質(空気)の密度が小さいので、効率よく発生させるのも・効率よく他のエネルギーに変換するのも結構難しいものです. 音を発生させるのに使うスピーカーというものが、どれだけ非効率で性能の劣悪な装置なのか調べてみると良いでしょう.
音は空間に拡散し、回折効果により物陰にもまわりこみます. それが光と比較して桁外れに波長の長い音の基本的性質です. だからこそ人間や動物はコミュニケーションに音を使います.(光と音の波長を比較してみてください)